概要(2014年3月現在)

研究背景と目的

研究背景
 糖尿病とその予備群は,現在,2,210万人と推計され,糖尿病は国民病とも言える疾病となっており(平成19年国民健康・栄養調査結果の概要),リハビリテーション対象疾患である脳卒中患者や心疾患患者にも糖尿病を合併する患者が非常に多くなっています(文献1).糖尿病は,慢性的な高血糖によって特有の合併症(網膜症・腎症・神経障害)を生じることが特徴です.糖尿病合併症の中でも最も合併頻度の高い糖尿病多発性神経障害(diabetic polyneuropathy: DP)は,過去,感覚神経の障害に注目がおかれ,運動神経の障害はあまり注目されていなかった懸念があります.その理由としては,臨床において運動神経の障害を筋力から判定する際,一部の施設を除き,軽度から中等度の障害を検出するには感度が低く,熟練を要する徒手筋力テストで判定してきた背景がその一因と考えられます.近年,筋力の定量的な測定が可能になり,糖尿病患者における下肢筋力水準の低下が報告され,とくにDP合併患者では,DPの重症度に関連して下肢筋力が低値を示すことが欧米の研究で示されています(文献2,3).
 一方,下肢筋力の中でも膝伸展筋力については,日本において低価格で信頼性・再現性が高い固定用ベルトを併用した小型筋力測定器による健常者の参考基準値が報告され(文献4),歩行能力や階段昇降能力等の重要な日常生活動作との関連が検討されています(文献5,6).また,得られた膝伸展筋力値を運動療法の効果判定や患者教育に活用する臨床的有用性も報告されており(文献7),下肢筋力値の定量的評価に基づく運動処方・指導が,効果的なリハビリテーションを進めるうえで重要な方策の一つとなりつつあります.これまで,内科疾患のうち呼吸器・循環器疾患者については,定量的測定による膝伸展筋力の参考基準値が報告されていますが(文献8,9),糖尿病患者を対象とした報告はありませんでした.
 この状況の中,我々は日本で初めて2型糖尿病患者の定量的な膝伸展筋力値についてDP合併の有無をふまえて報告しました(文献10).しかしながら,対象者が47名と少数であったため,糖尿病患者の膝伸展筋力の参考基準値を確立するまでには至りませんでした.

研究目的
 本研究では,合併症(DP)との関連をふまえて2型糖尿病患者の膝伸展筋力の参考基準値を確立することを目的としています.合併症(DP)との関連をふまえて膝伸展筋力の参考基準値を確立するためには,大多数の症例が必要であることから多施設共同でのデータ収集が必要です.

 そこで本研究では,
1. 多施設共同研究体制を構築する
2. 2型糖尿病患者の膝伸展筋力を測定し関連データを収集する
3. データべースへのデータ登録を行う(データの固定)
4. データ解析し膝伸展筋力の参考基準値を確立する

 以上を行い,研究目的を実現します.
 まず,多施設共同研究体制の構築においてはデータベースを整備し研究プロトコールを統制します.
 ついで,2型糖尿病患者の膝伸展筋力の測定においては同一の小型筋力測定機器・同一の方法で測定を行います.データベースへのデータ登録にあたっては,データの信頼性を向上させるために精査のうえデータを固定します.データ固定後にデータ解析を行い,DPの有無別に2型糖尿病患者の膝伸展筋力の参考基準値を確立します.

社会的意義や重要性
 全国のリハビリテーションや糖尿病管理に携わる医療関連職者が測定可能な方法で得られた参考基準値でなければ,得られた成果の利用範囲はおのずと限定されます.また,汎用性が高くとも医療現場で一般的に使用されている筋力評価機器で得られた測定値と同等の高い信頼性が必要です.そこで,本研究では高い信頼性を有する筋力評価機器である等速性運動機器で測定された筋力値との関連が検証され,妥当性が立証された小型筋力測定器を使用します(文献11).再現性・信頼性を兼ね備え,一般的に使用されている等速性運動機器と比較すると低価格であり,リハビリテーションの臨床現場で普及が進みつつある小型筋力測定器を用いた測定(文献12)によって参考基準値の確立を目指していることから,得られる成果は臨床汎用性が高いと考えています.
 本研究の成果は,糖尿病患者およびリハビリテーションが必要な糖尿病を合併する患者において,合併症(DP)の重症度判定,運動療法の効果判定ならびに運動療法の処方(筋力強化に対する介入の必要性判断基準,段階的な筋力強化方法の立案への展開,各種運動による筋力増加効果の推測など)の標準化につながり,生活習慣病や要介護状態の予防を目的とした健康・スポーツ科学などの関連分野での活用も期待できます.

文献
1. 上月正博. リハからみた糖尿病のトータルケア 今必要なトータルケアの視点. 臨床リハ 16: 604-610 (2007)
2. Andersen H, et al. Isokinetic muscle strength in long-term IDDM patients in relation to diabetic complications. Diabetes 45: 440-445 (1996)
3. Andersen H, et al. Muscle strength in type 2 diabetes. Diabetes 53: 1543-1548 (2004)
4. 平澤有里, 他. 健常者の等尺性膝伸展筋力. 理学療法ジャーナル 33: 330-333 (2004)
5. 青木詩子, 他. 昇段能力と膝伸展筋力の関係. 理学療法ジャーナル 35: 907-910 (2001)
6. 大森圭貢, 他. 高齢患者における等尺性膝伸展筋力と立ち上がり能力の関連. 理学療法学31: 106-112 (2004)
7. 山崎裕司. 下肢筋力と歩行訓練. 総合リハビリテーション 32: 813-818 (2004)
8. 山崎裕司, 他. 冠動脈疾患患者の下肢筋力水準. 心臓リハビリテーション 6: 115-117 (2001)
9. 横山仁志, 他. 肺気腫患者の下肢筋力水準. 呼吸と循環 53: 213-217 (2005)
10. 野村卓生, 他. 2型糖尿病患者における片脚立位バランスと膝伸展筋力の関係. 糖尿病 49: 227-231 (2006)
11. 平澤有里, 他. ハンドヘルドダイナモメーターを用いた等尺性膝伸展筋力測定の妥当性. 総合リハビリテーション33: 375-377 (2005)
12. 山崎裕司. 機器による筋力測定. 総合リハビリテーション 35: 724-725 (2007)


研究協力施設

研究協力施設一覧
1. 石川県立中央病院(石川県)
2. 公立豊岡病院日高医療センター(兵庫県)
3. 公立八鹿病院(兵庫県)
4. KKR高松病院(香川県)
5. キナシ大林病院(香川県)
6. 四万十市立市民病院(高知県)
7. 高知大学医学部附属病院(高知県)
8. 社会医療法人愛仁会千船病院(大阪府)
9. 高知県立あき総合病院(高知県)
10. 市立伊丹病院(兵庫県)
11. 市立吹田市民病院(大阪府)
12. 東京医科大学八王子医療センター(東京都)
13. 医療法人仁寿会石川病院(兵庫県)
14. 聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県)
15. 公立甲賀病院(滋賀県)
16. 総合病院南生協病院(愛知県)
17. 公立陶生病院(愛知県)
18. 大阪労災病院勤労者予防医療センター(大阪府)
19. 春日井市民病院(愛知県)
20. 金沢赤十字病院(石川県)
21. 広島大学病院(広島県)
22. 恒昭会藍野病院(大阪府)
23. 長野医療生活協同組合長野中央病院(長野県)
24. 北里大学病院(神奈川県)
25. 京都南病院(京都府)
26. 製鉄記念八幡病院(福岡県)
27. 岡崎市民病院(愛知県)
28. さいたま市民医療センター(埼玉県)
29. 総合大雄会病院(愛知県)
30. 丸子中央総合病院(長野県)

以上,計30施設

 データ収集は医療施設内で理学療法士が行い,測定方法を標準化しています.研究プロトコールの統制を図り,精度の高いデータ収集に努めています.
 本研究は,医学情報大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)臨床試験登録システムに登録しています.UMIN臨床試験登録システムに登録する主要な倫理審査委員会(IRB)は関西福祉科学大学研究倫理委員会です.

UMIN-CTR UMIN ID UMIN000002810


情報公開

年月 内容 公開先
2009年11月 試験情報公開 UMIN-CTR
2014年5月 中間解析結果の報告 KAKEN
2014月10日 プロトコールの論文発表 Journal of Diabetes Mellitus
2015年11月 研究成果の一般公開を開始 本サイト
2017年3月 メインデータの論文発表 Journal of Diabetes Investigation